・このページの内容は、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て、IWSAweb site上の記事を翻訳・転載したものです→こちら
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Translated by Madoka Hasegawa, June 2015

WAGR症候群と慢性腎臓病 Q&A
Jeffrey Kopp, MD
Staff Clinician
National Institutes of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases, National Institutes of Health, Bethesda, MD

上の図は、糸球体の図である。血液は輸入細動脈(afferent arteriole(AA))から糸球体に入り、糸球体中心の毛細血管網を通り、輸出細動脈(efferent arteriole(EA))から出ていく。液体は糸球体の「ふるい」を通り(細胞やタンパク質は通らない)、近位尿細管へ出ていく。野菜をシンクで洗う時に、水きり器を水が通るような感じである。液体は、尿細管を通って最終的には尿になる。足細胞(podocyte(PO))は、糸球体隔壁の維持を担う細胞の1つであり、巣状分節性糸球体硬化症で侵される細胞である。

1つの腎臓にはおよそ100万個の糸球体があり、それぞれの糸球体は毛細血管が房状に集まってできたものである:糸球体は、血液から毒素などの小分子をろ過している。

巣状分節性糸球体硬化症(Focal Segmental Glomerulosclerosis(FSGS))では、糸球体に瘢痕化(硬化:sclerosis)が起きるが、それが発症時にはいくつかの糸球体(巣状:focal)の一部(分節性:segments)に起きる一方で、他の糸球体は正常のままという特徴がある。

1 WAGR症候群の人は全員、FSGSのスクリーニングが必要ですか?
Yes
 WAGR症候群の人は、腎疾患を見つけるために定期的なスクリーニングを受けることを薦めます。

2 私の子供はウィルムス腫瘍ができませんでした―それでも腎疾患のスクリーニングが必要ですか?
Yes
 たとえウィルムス腫瘍にならなくても、腎疾患を発症するリスクはあります。

3 WAGR症候群の人が腎疾患を発症する確率はどれくらいですか?
まだ研究最中のことなので、正確な発症率はわかりません。最近発表されたWAGR症候群54症例の報告では、12才以上の人の60%に腎機能の低下や腎不全があったと報告しています(Pediatrics 2005;116:984-988)

4 WAGR症候群の腎疾患の原因は何ですか?
WAGR
症候群の患者が腎疾患を発症する場合、最も一般的なのはFSGSです。上に述べたとおりFSGSは症候群であり、WAGR症候群の患者はこの種の腎瘢痕化を促進するいくつかの要因をもっている可能性があります。
・まず、WT1遺伝子は、糸球体の細胞の1つである足細胞(podocyte(foot cell))が正常に機能するために重要です。WAGR症候群の人は、正常なWT1遺伝子のコピーを1つしか持っておらず(欠失していない方の11番染色体上に)、多くの場合その発現が、足細胞が正常に機能するには不十分なのです。
・次に、WAGR症候群の人は肥満になりやすく、これは、大きくなった体に対応すべく腎臓に機能亢進を強いることで、腎臓に代謝ストレスをかけることになります。たとえば、高速で(rpm)長時間運転した車のエンジンが、穏やかに運転したエンジンよりも長持ちしないようなものです。
3つ目に、ウィルムス腫瘍を患ったことのあるWAGR症候群の人は、腎臓が1つしか残っていないことがあり、その場合、その残った腎臓は腎臓2つ分の働きをしなくてはならなくなります。これがまた腎臓のストレスとなるのです。一見問題ないように思えますが(他の人へ安全に、1つの腎臓を献腎できるように)もう一方の腎疾患を悪くする可能性もあるのです。
4つ目は、高血圧を発症するとそれがFSGSを起こす可能性があるし、他の要因で始まったFSGSの硬化の進行を促進してしまうこともあります。
5つ目は、正常な腎臓側にもかかるように放射線治療を受けたことがあるWAGRの人は、放射線障害を起こすこともあります。
WAGR
の人が糖尿病を発症すると糖尿病性腎症になるリスクがあり、これはFSGSとは違う疾患ではありますが、同じような糸球体の瘢痕化(糸球体硬化(glomerulosclerosis))を呈します。

5
 WAGRの腎疾患を見つけるために、何歳から検査を始めるべきですか?
我々は、腎疾患発見のための検査を、生まれた時から始めるよう薦めます。乳児期と幼児期初期のWAGRの子はウィルムス腫瘍を発症するリスクが高いし、幼児期後期と思春期初期には、腎疾患のリスクが高くなります。なので、一生涯観察を続けることが推奨されます。

6 腎疾患を早期に発見するために、どんな検査ができますか?
FSGS
のスクリーニングのためには、1年に1回の血圧測定と尿タンパク測定を受けるべきです。何歳からなのか、5歳か10歳か、それとも他の年齢なのかはわかりません。
尿タンパクを調べる方法は3つあります:
Dipstickテスト:尿検査のルーチンとして行われます。役には立つが感度は高くありません(いいかえると、腎疾患の徴候である微量タンパクは見逃される可能性があります)
・尿中タンパク/クレアチニン比の測定:これは感度がより高く、初期の腎疾患を見つけることができます。
・尿中アルブミン/クレアチニン比の測定(アルブミンとは血漿タンパクである):これは、初期の糖尿病性腎症を発見するための標準的な検査法ですが、他の腎疾患における役割ははっきりしません。

7 腎疾患の初期徴候と症状は何ですか?
初期の腎疾患は通常無症状です。だからこそ、定期的な臨床検査が重要です。

8 WAGRの腎疾患はどのように治療されますか?
他の硬化性腎疾患の進行を抑制する治療法には、3つのものがあります。WAGR患者に限定して調べた研究はないけれど、これらの治療が効果的なようです。
1つ目は、血圧をその年齢相応の正常範囲にコントロールすること。
2つ目は、ACE阻害剤やARBs(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)という、特定の降圧薬を使用すること。これらの薬は3つの効能があります:全身の血圧を下げること、糸球体内圧を下げること、膠原線維(主な瘢痕性タンパク)の生成を調節するシグナル分子を変化させることで、糸球体の瘢痕化(糸球体硬化)の進行を抑制したり遅らせることです。
3つ目は、食事の塩分制限で、これは血圧をさげるだけでなく、ACE阻害薬やARBsの腎瘢痕化を減らす効果を増強します。

9
 WAGR症候群の人に推奨される治療法は、WAGRでない腎不全の治療と比べて違いがありますか?
WAGR
における重症化した腎疾患の治療法は、他の原因によって生じた重症腎疾患の治療と同様です。腎不全のときの選択肢には、慢性透析(血液透析か腹膜透析)や腎移植があります。腎移植が好まれます((訳者注)末期腎不全における腎代替療法のスタンダードとして、諸外国では腎移植が多いのに対し、日本では多くの場合透析が主流という違いがあります)

Adapted from: “Nephrology 101: What Every Parent Must Know,” an interview with Jeffrey
Kopp, MD, in WINGS, the newsletter of the International WAGR Syndrome Association,
Spring/Summer 2009, pp 9-10.

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