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Translated by Madoka Hasegawa, September 2014

遺伝子の基礎
By Katrina L. Epperson, BA and Joan C. Han, MD.
この記事は「WINGS newsletter Spring/Summer 201247ページに記載してある。

WAGR/11p
欠失症候群のような疾患の診断や治療、管理における遺伝子の役割を理解しようとすると、私たちの多くはややこしく感じ圧倒されてしまうだろう。遺伝子の基礎知識や、遺伝子が私たちの愛すべき子供たちにどのように関わっているのかの情報を、ここに記載しようと思う。

1
 DNAとは何か?
全ての生物において、DNAが遺伝情報を記録している。DNA4つのヌクレオチド塩基から構成されている。ヌクレオチド塩基とは、Adenine(A)Guanine(G)Cytosine(C)Thymine(T)のことで、アルファベット表記の模型のような働きをする。特有の塩基の組み合わせで指示を出す、例えると生物が成長し機能するための青写真のような、体が使う「言葉」として働く。
英語のアルファベット:ABC….XYZ
DNA
塩基:ACGT

2
 遺伝子とは何か?
遺伝子は、生物が成長し機能するために必要な指示つまり言葉を、伝えるためのものである。DNA(つまりアルファベット模型)からできていて、人間が生きるために必要なたんぱく質をコードしている。
英語:パンとバター
DNA
言語:GCT ACC

3
 染色体とは何か?
染色体とは、DNAやコード化した遺伝子を、細胞内に詰め蓄えておくためのものである。染色体は、たくさんの様々なチャプターからなる本のようなものである。そのチャプターにはたくさんの遺伝子(つまり言葉)を含むことができ、染色体上のバンドにあたる。人は23対の染色体、つまり本を持っている。DNAの半分は母親から、もう半分は父親から受け継ぎ、全部で46本の染色体(23)となっている。

4
 特定の遺伝子はどのように名づけられるか?
そのラベリングシステムは、目次と同じである。全ての染色体()は最後の一対を除いて1~22番の番号がついている。最後の一対の染色体は、男性か女性かを決める性染色体である。男性は1本のX染色体と1本のY染色体、女性は2本のX染色体をもっている。全ての染色体は2本の腕からなっていて、1本は短く(短腕)もう1本は長い(長腕)。この腕はセントロメアによってつながっている。短腕は「p」という文字であらわされ、長腕は「q」であらわされる。
ある遺伝子が名づけられると、その「本」の腕の位置が決められ、最終的には「本」の特定の「チャプター」が決められることで、ある特定の「本」が決められる。例えば、WAGR/11p Deletion Syndromeでは、11p13欠失(欠失についての記述は質問9を参照)がある。これが意味することは、染色体()11の、短腕(p)上の、バンド(チャプター)13に、欠失があるということである。11p欠失のある人は、チャプター1214(11p12, 11p14と呼ぶ)上の遺伝子も欠失することもある。

5
 遺伝子はどのように伝えられるのか?何がその人の特徴を決めるのか?
人は、遺伝子(言語)の半分を母親から、もう半分を父親から受け取る。それぞれの人には、その人固有の遺伝子の組み合わせから決まる形質一式が表現される。わずかなつづりの違いによって、形質や性質の違いができる。

6
 ヒトゲノムとは何か?ヒトゲノム計画とは何か?
ヒトゲノムとは、ある人が両親から受け継ぎ、染色体に入っている、一揃いのDNAのことである。ヒトゲノム計画とは、人が生きるために必要なすべての遺伝子を解析しようという国際的な取り組みのことである。この計画は1990年に始まった。2003年に、ゲノムは99.99%正確にその位置が同定された。それ以来、より正確さを増すために更新が行われてきた。全てのヒトゲノム情報を得るということは、研究者が、人間の体の取扱説明書を得るのと同じである。この取扱説明書は、私たちが薬や生物学、社会科学、生物工学(他のたくさんの研究分野も)を理解するための助けとなる。遺伝学とは、100年強前、1900年代に遺伝子が発見されたことで始まったとても新しい研究分野である。遺伝学は、人間の体への理解を急速に変化させ、絶えず医療を向上させている。

7
 ヒトゲノムにはいくつの遺伝子があるのか?
ヒトゲノムのDNAを構成するおよそ30億対の塩基がある。およそ25,000の遺伝子があるが、これらは人間のDNAのたった2%分しか説明していない。残りのDNAはタンパク質をつくらない繰り返し配列であるが、これらの領域は、遺伝子機能をコントロールするためには大切である。50%以上の遺伝子の機能はまだわかっていないが、その目的を決定するために研究が続けられている。

8
 遺伝子変異とは何か?de novoとはどういう意味か?
遺伝子突然変異は、DNAの「文字」を変えてしまうことである。それが修復されないと、変わってしまった遺伝子(つまり「言葉」)によっては、様々な問題を生じる可能性がある。このような突然変異は、親から受け継がれることもあるし、親から受け継いだのではなく、環境や原因のわからない特発性のイベントなどの様々な要因によって、新しく生じる(de novoとはラテン語でfrom newを意味する)こともある。

9
 欠失(Deletion)やハプロ不全(haploinsufficiency)があるとはどういうことか?
欠失とは、遺伝物質(つまり「言葉」)が失われている、というタイプの突然変異である。この失われている範囲はとても小さく、たった一つのヌクレオチド塩基(つまり「文字」)だけのこともある。もっと大きい欠失では、染色体上の「パラグラフ」や「チャプター」全体を失うような場合もある。人は、全ての遺伝子を2コピーずつ持っていて、1つは母親から、もう1つは父親からもらったものである。ハプロ不全とは、一対の遺伝子のうち一方の遺伝子が機能しないということである。これは遺伝子の欠失によっても起こるし、DNAの「文字」が変わって「綴りが間違って」しまい、その片方の遺伝子からはたんぱく質が作られない、ということでもおこる。

10
 WAGR/11p Deletion症候群とは何か?
WAGR
症候群とは、4つのカテゴリーの病気になりやすい、まれな遺伝子疾患である:
ウィルムス腫瘍:こどもでは最も一般的な腎臓がん
無虹彩:目の、色のついた部分の一部か全部がないもの
泌尿生殖器異常:男児における停留精巣や尿道下裂(尿道の開口部異常など)、女児における子宮・卵巣の問題など
認知機能障害:さまざまな程度の知的障害のある人もいる
WAGR
とは、染色体11p13領域の遺伝子欠失によって生じるものである。この欠失の多くは、散発性に(ランダムに)新規に(両親から遺伝したのではなく)発生する、原因不明の突然変異による。この欠失はヘテロ接合優性(heterozygous and dominant)である。つまり、一対の遺伝子のうち一方の11p13領域のみが欠失していて、もう一方の遺伝子は正常であるが、一方の遺伝子の欠失のみだけで十分健康問題がおこるということである。

11
 WAGR/11p Deletion症候群ではどんな遺伝子欠失がみられるか?
染色体11p13上で欠失している遺伝子の数は、人によって様々である。我々のNIHでの研究では、遺伝子欠失の数には100万から2650万塩基対の幅があり、平均サイズはおよそ1100万塩基対である。WAGR/11p Deletion症候群の古典的な徴候をもつ患者に共通するのは、PAX6WT1が欠失していることである。しかしながら、個人差が大きく、他の遺伝子欠失ももっていることがある。11p 欠失のある人の中には、PAX6WT1の欠失がない人もいて、その場合は「11p Deletion症候群」と呼ばれることになる。WAGR/11p Deletion症候群は11p Deletion症候群のサブタイプと考えられる。

12
 欠失部位が異なると、どんな臨床的な違いがみられるのか?
人それぞれ遺伝子欠失領域が異なるので、生じる健康問題にも違いが出る。PAX6遺伝子の欠失は、無虹彩と関連している。WT1遺伝子の欠失は、ウィルムス腫瘍と泌尿生殖器異常と関連がある。EXT2の欠失は骨軟骨種という骨腫瘍と、ALX4の欠失は頭蓋骨の異常な孔と、BDNFの欠失は肥満と痛みへの高い耐性と、それぞれ関連がある。

13
 WAGR/11p Deletion症候群の患者が、自分の欠失部位を知ることは役に立つか?
Yes
、欠失領域を知ることは、診療方針を決めるのに役立つ。例えば、EXT2が欠失していると医師が知っていれば、診察やレントゲン撮影で骨腫瘍を観察し始めることができる。BDNFが欠失していると医師が知っていれば、肥満になる前の幼児期から体重管理についての特別なカウンセリングを受けられるし、体重超過を予防するために発育を観察すべく注意を払うことができる。また、BDNFが欠失していると知っていると、子供が痛みを訴えたときに、医師に、より用心深く診るよう注意を促すことができる。なぜなら、痛みへの耐性が高いと、膵炎のようなとても重篤な疾患なのに、誤って軽い症状のようにみえることがあるからである。研究者たちは、WAGR症候群で欠失する可能性のあるすべての遺伝子の機能をもっと知るために、研究をすすめている。欠失遺伝子の機能をもっと知ることで、患者の診療が進歩しうると期待している。

14
 WAGR/11p Deletion症候群の患者が、どんな欠失を持っているかを知ることのマイナス面はあるか?
Yes
、患者が持っている欠失を知ることのマイナス面はいくつかある。多くの遺伝子の機能はまだ不明であるので、欠失を知って、まだわからない可能性を心配することになる可能性もある。たとえその遺伝子の機能がわかっていても、欠失がわかっても治療法がわからなくて、病気を予防しても役に立たないこともある。欠失遺伝子に関連する症状がまだなくて、発症するかもわからないのに、リスクがあると知ることで、心配や余計な検査をすることになる可能性もある。そのうえ現行の法律では、遺伝子の状態に基づいて健康保険は拒否できない一方で、障害保険と生命保険は拒否されうる。我々は、遺伝子検査をする前に、遺伝子検査をする是非について、家族と主治医や遺伝カウンセラーがよく話し合うことを薦める。

15
 WAGR/11p Deletion症候群は自分の子供に遺伝するか?
Yes
WAGR/11p Deletion症候群の人は、この病気の形質を子供に遺伝する可能性がある。WAGR/11p Deletion症候群の人の多くは、11p欠失という突然変異がde novoで発生しているので、両親から受け継いだものではない(質問8参照)。しかしながら、ある人に一度欠失が生じると、その欠失を自分の子供に遺伝させる可能性は50%ある。

16
 どの遺伝子検査をすれば欠失が特定できるか?
遺伝子検査とは、遺伝子疾患を診断するために用いられる、DNA診断臨床検査である。多くの遺伝子検査は、採血が必要だが、通常大さじ一杯以下の量で足りる。
WAGR/11p Deletion
症候群に関連する欠失を明らかにするためには、以下の3つのタイプの遺伝子検査が行われる。

  1 Karyotype:サイズ、形、何番の染色体かなどの概要がわかる。かなり大きい欠失はわかるが、小さいサイズの欠失は見逃される可能性がある。
  2 Fluorescence in situ hybridization(FISH):ある特定の遺伝子がないこと(またはあること)を特異的に検出するために、蛍光プローブを使用する検査
  3 Comparative Genomic Hybridization(CGH)Karyotypeよりもより正確な精度をもって、遺伝子の欠失や重複の領域を検出でき、FISHと多少似た情報が得られる。が、CGHのほうが同時にたくさんの遺伝子の検査ができる。

17
 遺伝子検査の実施は、健康保険が使えますか?
ほとんどの遺伝子検査は、健康保険でカバーできる。まず、あなたの健康保険供給者に、どの検査が保険でカバーできるか確認すればよい。NIHもまた、ある研究スタディの参加者には、無料で遺伝子検査を提供している。

18
 遺伝学はWAGR/11p Deletion症候群の治療や研究に、どのように役立っていくのか?
病気の遺伝学的根拠を決定することは、なぜその患者にある症状が生じているのかを理解するためには重要であり、医師が病気を観察、予防、治療する手引きとなってくれる。遺伝子についてもっと学ぶことの目的は、WAGRと他の11p Deletion症候群をもつ患者の治療や生活の質を改善させることである。

遺伝子やWAGR/11p Deletion症候群についてさらに学ぶためには、この記事を書くために使った下記のresourceがオンラインで利用できる。
National Human Genome Research Institute: Learning About WAGR Syndrome
http://www.genome.gov/26023527#al-1

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