ウィルムス腫瘍とWAGR症候群

・このページの内容は、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て、IWSAweb site上の記事を翻訳・転載したものです→こちら
・誤訳・疑問等は、訳者にお問い合わせください:m-cho◎gk9.so-net.ne.jp(送信の際◎を@に変更)
Translated by Madoka Hasegawa, June, 2015

ウィルムス腫瘍とWAGR症候群
WAGR症候群の「W」は、「ウィルムス腫瘍(Wilms tumor)」を表しています。WAGR症候群の子どものおよそ50%がウィルムス腫瘍を発症します。生まれた時またはWAGR症候群と診断された時から、継続的なスクリーニング検査を始めるべきです。ウィルムス腫瘍のスクリーニングは、8歳になるまで、3か月ごとに腹部超音波検査で行います。次の超音波検査までの間、親が子供の腹部を触診できるよう、トレーニングすべきと提唱する医師もいます。

WAGR
症候群の子どもでは、通常より早い年齢でウィルムス腫瘍を発症する傾向にあります。WAGR症候群の子どもでウィルムス腫瘍と診断される平均年齢は、17-28か月です。WAGR症候群の子どもの多くは、3歳までにウィルムス腫瘍と診断されています。稀ではありますが、25歳までの発症例も報告されています。この理由から、612か月ごとの腹部超音波検査や後述の症状を観察するなど、何らかの方法で一生涯モニタリングを続けるべきです。

ウィルムス腫瘍の診断
ウィルムス腫瘍は、超音波、CTMRIなどの画像検査で新たな塊が見つかった時に、疑われます。しかしながら、nephrogenic rests(腎臓の未熟な細胞の集まり)WAGR症候群にはよくみられ、これはウィルムス腫瘍と区別することが難しいとされています。Nephrogenic restsは悪性ではありませんが、悪性になる可能性があると考えられています。より詳しくは「Nephrogenic Rests」の項を参照してください。

ウィルムス腫瘍は、画像検査でウィルムス腫瘍だろうと疑われますが、確定診断は腫瘍の組織学的検査(顕微鏡的検査)のみでなされます。診断、ウィルムス腫瘍の病期、生検をするか/またいつするかには、異なる方針が存在します:
The Children’s Oncology Group(COG)(北米の小児腫瘍のスタディグループ)は、最も正確な病期を知るために、化学療法をする前に、腎摘出/腫瘍切除と限局的なリンパ節サンプリングをまず行うことを推奨しています。もし腫瘍が切除できないと考えられる場合は、診断を確定するために生検することを推奨しています[Green2004, Metzger&Dome2005]
The International Society of Pediatric Oncology(SIOP)(ヨーロッパの小児腫瘍のスタディグループ)は、手術を容易にする目的で腫瘍を縮小させるために、全ての症例(生検をする場合もしない場合もある。患者の年齢による)に術前の化学療法を推奨しています[Kraker&Jones2005]
2
つのアプローチの治療成績はほとんど同じです。WAGR症候群の患者のウィルムス腫瘍の中には、これら2つのアプローチを組み合わせて対応することが適切な場合もあります。

ウィルムス腫瘍とは何ですか?
ウィルムス腫瘍は、腎臓の未熟な細胞から発生する、腎臓の固形悪性腫瘍()です。

ウィルムス腫瘍を発症した子どもの多くでは、原因は不明です。ある環境因子
(有害化学物質など)がリスクを増加させる可能性はありますが、今後さらなる研究が必要です。

下記のような疾患をもつ場合、ウィルムス腫瘍を発症するリスクが高いとされています:
WAGR症候群(Wilms tumor-aniridia-genitourinary malformation-retardation)
Denys-Drash syndrome
Beckwith-Wildemann syndrome
1.5%のウィルムス腫瘍の子どもでは、家族の中にもウィルムス腫瘍の経験者がいます (家族性ウィルムス腫瘍)510%の症例では、両方の腎臓に腫瘍が発生し(両側性腫瘍と呼びます)、遺伝性の場合が考えられています。

・時に、片方の腎臓に
1つ以上のウィルムス腫瘍が発生します。これは腫瘍が広がったものではありません。
・それぞれの腫瘍は各々発生したもので、腎臓の「nephrogenic rests」と呼ばれる未熟な細胞に由来しているでしょう。
・ウィルムス腫瘍が広がる場合は、遺伝子のせいのや、疾患が進行したせいの場合もあります。
・ウィルムス腫瘍は、腎臓の周りの血管の中に、腫瘍塊(塞栓)として広がることがあります。他に多いのは、肺への転移です。

ウィルムス腫瘍の発生頻度はどれくらいですか?
・ウィルムス腫瘍は、小児悪性腫瘍の中で4番目に多く、小児の腎臓がんの中では最もよくあるタイプのものです。
・アメリカでは、毎年約500例のウィルムス腫瘍の発生が報告されていて、小児の10,000人に1人に発症するとされています。
・ウィルムス腫瘍の発症リスクは、白人よりもアフリカ系アメリカ人で高く、アジア人は白人より低いです。
・片側性のウィルムス腫瘍の場合は、通常3歳あたりまでに診断されます。両側性のウィルムス腫瘍の場合は、通常2歳あたりまでに診断されます。
・時にウィルムス腫瘍は、年長の子どもや大人にも見つかることもあります。
・男児は女児に比較して、より低月齢で発症する傾向にありますが、発症リスク自体に性差はありません。

ウィルムス腫瘍によくみられる症状にはどんなものがありますか?
ウィルムス腫瘍は、症状がでる前にとても大きくなります。症状がでたとしても、他の疾患のものと似ています。以下のようなものがあります:
・腹部が固く腫れる(お腹の膨らみ):痛みを伴うこともないこともあります。子どもの着替えやお風呂のときに、親が固い部分やしこり(特に体の片側だけにある)を感じて気づくことがあります。
・腹部のしこりまたは塊
・腹痛
・発熱
・吐き気
・食欲低下
・血尿
・便秘
・高血圧
・下痢
・体重減少
・泌尿生殖器感染症
・貧血
・息切れ

ウィルムス腫瘍はどのように治療しますか?
ウィルムス腫瘍の治療は今のところ、WAGR症候群の患者もそうでない患者も、同じように行われています。治療は、手術と化学療法を組み合わせたものからなり、放射線療法(進行した病期の場合)が行われることもあります。
アメリカではほとんどの場合、腫瘍が見つかったらすぐに手術で取り除かれます。ヨーロッパでは通常、まず数週間の化学療法を受けます。どちらの方法でも治療成績は良好です。

・手術-腫瘍を取り除くために行われます。片側性のウィルムス腫瘍患者では、腫瘍と一緒に片側の腎臓ごと摘出します。摘出が難しい腫瘍や両側性の腫瘍では通常、腫瘍を縮小させて手術をしやすくするために、化学療法を先に行います。
・化学療法(抗がん剤治療)-がん細胞を殺し、成長(分裂)を止め、それ以上がん細胞を作らせないようにするために、強力な薬を使います。
 ・抗がん剤は、太い中心静脈カテーテルから血管内に投与され、体中に行きわたらせます。
 ・多剤併用療法とは1度に複数のタイプの抗がん剤を使うもので、ウィルムス腫瘍の治療ではこれが行われます。
 ・化学療法は、手術の前に腫瘍を縮小させるためや、体の他の部位に腫瘍が広がらないようにするためや、すでに原発巣から他の場所に広がってしまったものを治療するために行われます。
 もし腫瘍が腎臓の外の腹腔や肺に広がってしまったら、より強力な化学療法が必要となり、腫瘍の部位に直接放射線を当てることになります。

IWSA
の仲間の親たちは、WAGR症候群の子どもでウィルムス腫瘍を発症して化学療法を受けた際に、神経学的な副作用を多く報告しています。それらには、眼瞼下垂(瞼が下がること)、手や指のしびれや感覚低下、足/脚の痛みや感覚過敏などがあります。これらの副作用のために、ある薬の投与量や投与のタイミングを変える必要がある場合もあります。これまで、このことについて検証したスタディはなされていません。WAGR症候群の子どもにおける化学療法の副作用の種類や頻度に関する調査に協力するために、ご両親たちはCoRDS/IWSA Patients Registryに参加することが薦められます。
ウィルムス腫瘍の治療に関するさらなる情報は、以下のサイトで見ることができます:
Children’s Oncology Groupは、臨床研究を支援する米国国立癌研究所で、とりわけ小児や青年期の癌研究を専門としている世界で最も大きな組織です。Last update2011.7
Wilms Tumor Overview, Jeffrey S Dome, MD, PhD and Vicki Huff, PhD. Last update2013.9.19

ウィルムス腫瘍治療後の生存率は?
長期予後は良好です:
・予後良好の組織型(favorable histology)のウィルムス腫瘍患者のおよそ8590%は治癒します。組織とは、顕微鏡で見た時の、細胞(この場合は腫瘍細胞)の見かけのことです。
Anaplastic histologyと言う異形成を呈する、ウィルムス腫瘍の中でもより悪性度の高いものでは、治癒率は低いです。
・ウィルムス腫瘍の治療をした患者は、生存者の25%に慢性的な健康問題を生じるため、注意深いフォローを続けるべきです。この健康問題とは、高血圧や心機能、腎機能に関連するものです。

WAGR症候群におけるNephrogenic Rests
Nephrogenic rests
は、WAGR症候群の子どもにはよくみられるものです。Nephrogenic restsとは、胎生期の腎細胞が生まれた後も残存している、良性の遺残組織です。これら細胞の集簇は、時にウィルムス腫瘍の前がん病変となります。

Nephroblastomatosis
という言葉は、nephrogenic restsが多発して存在するときに用いられます。Nephroblastomatosisと言う時には、restsがびまん性に増殖していること(腎臓を腫大させるように取り囲んで)restsが多発して存在していることを、表現しています。

Nephrogenic rests
とウィルムス腫瘍を区別することは、生検によっても困難な場合があります。Nephrogenic restsは良性と考えられていますが、restsが大きくなったり、症状が悪さをする場合には、化学療法の実施が推奨されています。ある報告では、化学療法によってnephrogenic restsのある子どもにウィルムス腫瘍が発症するリスクが減少すると示唆しています。

ウィルムス腫瘍治療後のフォローアップ
ウィルムス腫瘍の治療後、多くの家族の主な心配事は、腫瘍やその治療による短期~長期的な影響と、治療がまだ残存していたり再発するのではないかという心配です。

腫瘍や治療のことから離れ、癌とは関係ない生活に戻りたいと思うことは、当然普通のことです。しかし、良好な長期的予後を得るには、適切な経過観察が治療の中心となることを認識することが重要です。

From the American Cancer Society article “What happens after treatment for Wilms tumor?” Accessed: February 23, 2015

Also see the Children’s Oncology Group article Long-Term Follow-Up Guidelines for Survivors of Childhood, Adolescent, and Young Adult Cancers. Accessed: February 23, 2015

経過観察に用いる検査
あなたの子どもの診療チームは、フォローアップ計画をたてるでしょう。身体診察と画像検査(胸部レントゲン写真、超音波検査、CTスキャンなど)が含まれ、腫瘍が増大していないか、再発していないか、治療による問題が生じていないかなどをみていきます。多くの子どもは腎臓を摘出しているので、残された腎臓がどのくらい働いているかをチェックするために、血液と尿の検査がなされます。あなたの子どもが化学療法でドキソルビシン(アドリアマイシン)を使用されたならば、心機能をチェックするための検査も実施されるでしょう。

推奨されるフォローアップ方法は、腫瘍が見つかったときの病期組織型
(予後良好型か予後不良型か)治療の種類、治療中に起きた様々な問題によって左右されます。通院や検査は、初めは頻回ですが(初めの数年間はおよそ612週間に1)、受診間隔は次第にあいていくでしょう。

この期間、何か新しい症状がでたらすぐに担当医に知らせることが大切です。原因を調べ、必要があれば治療できるようにするためです。担当医は何に注意してみるべきかを教えてくれるでしょう。

もし腫瘍が再発したら、あるいは治療に反応しなかったならば、担当医はあなたと治療の選択肢について話し合うでしょう。

両側性のウィルムス腫瘍やDenys-Drash症候群の子どもは、腎不全のリスクが高いです。この子供たちは、腎不全の初期徴候を見つけるために、少なくとも1年に1度ルーチンの検査が必要になります(尿検査、血圧測定、腎機能を見るための血液検査など)

治療による晩期合併症や長期的な影響
治療方法の進歩により、ウィルムス腫瘍の治療をした子どもの多くは、成人まで生きられるようになりました。治療は、遠隔期の子どもの健康に影響を与えることがわかってきたので、近年では、成長と共に生じてくる健康への影響をよくみることが、関心事になっています。

晩期合併症のリスクは多くの要因に影響され、例えば子どもの行っているある特定の治療法、治療薬の用量、治療が始まった時の子どもの年齢などがあります。晩期合併症には以下のものがあります:
・腎機能低下
・ある種の抗がん剤投与放射線療法を受けた後の、心臓や肺の問題
・成長と発達の遅れ
・性的発達と妊孕性(特に女児)の変化
・晩期の二次がん発症のリスクが増すこと(まれ)
晩期合併症に目を向けることの啓発と、小児がん経験者の生涯にわたるフォローアップケアを向上させるために、the Children’s Oncology group(COG)は小児がん経験者のための長期フォローアップガイドラインを発展させてきました。このガイドラインは、問題を見つけるために何を見るべきか、どんなスクリーニング検査をすべきか、晩期合併症がどのように治療されるのかを知る助けになるでしょう。

あなたの子どもの診療チームに、起こりうる長期合併症について尋ね、必要に応じて、それらの問題を見つけ治療するための適切なプランがあるかを確認してください。より詳しく知るためには、担当医にCOG survivor guidelineについて尋ねてみてください。COGのウェブサイトで無料でダウンロードすることもできます:www.survivorshipguidelines.org
このガイドラインは、専門家向けに書かれています。このガイドラインの患者向け版もこのサイトで手に入りますが(Health Links)、専門家向けのものを担当医と共に概観することをお奨めします。

がん治療による長期的な影響についてもっと知りたい場合は、Children Diagnosed With Cancer: Late effects of Cancer Treatment の記事も参照してください。

ウィルムス腫瘍経験者とその家族の感情と社会的な問題
ウィルムス腫瘍の子どものほとんどは、とても幼い時に診断されています。それでも、治療中や治療後に対処されなければならない感情的または精神的な問題をもつ子ども達がいます。年齢によっては、機能や学校での問題もあるでしょう。これらは支援や励ましによって克服されることが多いです。医師や治療グループの他のメンバーも、治療後の子どもを助けるための特別な支援プログラムやサービスをよく薦めます。

 両親や他の家族のメンバーも、感情的にも他の事においても、影響をうけます。よくある心配事としては、経済的なストレス、がんセンターへの通院や近くに滞在しなければならないこと、職を失う可能性、ホームスクリーニングの必要などがあります。

たくさんのウィルムス腫瘍患者を治療している病院では、新しい患者やその家族を、治療を終えた家族に紹介するプログラムを持っていることもあります。これにより治療中や治療後にどんなことがあるかのアイディアを共有することができ、これはとても重要なことです。他のウィルムス腫瘍患者が元気にやっていることを知ることは、しばしば助けになります。

がんの子どもの家族を支援するグループもまた役に立ちます。そのようなグループを見つける助けが必要ならば、the American Cancer Society(1-800-227-2345)に電話して、あなたの助けになるグループや資源と繋がってください。

良い診療記録を保存しておくこと
一度治療が終了したら、その経験から離れていたいと思うかもしれませんが、この時期に子どもの良い診療記録を残しておくことはとても重要です。治療後すぐに詳細な記録を集めることは、将来のある時に集めようとするよりもずっと簡単です。あなたの子どもの担当医が、成人期になったときにも知るべき情報には以下のものがあります:
・生検や手術による病理報告書のコピー
・手術をしたならば、手術記録のコピー
・入院したならば、退院するときに医師が準備した退院サマリーのコピー
・化学療法が行われたならば、あなたの子どもが投与された、それぞれの薬剤の最終的な総量のリスト。(ある薬には特定の晩期合併症がおこり得ます。小児腫瘍科医からこれらのリストをもらっておけば、将来あなたの子どもが別の医師に診てもらうことになった時に助けになるでしょう。)
・放射線治療が行われたならば、放射線の種類と線量、いつどこで行われたかのサマリー
健康保険の記録を残しておくこともまたとても重要です。フォローアップに必要な検査と通院には費用がたくさんかかるし、腫瘍が再発すると想定したい人はいないけれども、起こる可能性もあるのです。

最終更新日:20152
Kelly Trout, BSN, RN
Health Consultant
International WAGR Syndrome Association

参考文献
Learning about WAGR syndrome, National Human Genome Research Institute, National Institutes of Health(US) Last update:May,2014

WAGR syndrome: a clinical review of 54 cases. Fischbach BV, Trout KL, Lewis J, Luis CA, Sika M. Pediatrics. 2005 Oct;116(4):984-8.

What Is Wilms Tumor? St. Jude Childrens Research Hospital; Accessed: February 23, 2015

Wilms Tumor Overview, Jeffrey S Dome, MD, PhD and Vicki Huff, PhD. Last Update: September 19, 2013

What happens after treatment for Wilms tumor?, American Cancer Society; Last Medical Review: 09/17/2013, Last Revised: 02/14/2014

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