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WAGR syndrome (11p13 Deletion syndrome, 11p Deletion syndrome)

1 概要[1,2,3,4,5,6,9,7,8,48,49]
 11番染色体短碗13領域の微細欠失によって起こる、多発奇形-染色体異常症候群である。「WAGR」は、主な徴候であるウィルムス腫瘍(Wims腫瘍)、無虹彩症(Aniridia)、泌尿生殖器奇形(Genitourinary anomalies)、精神発達遅滞(mental Retardation)の頭文字をとったものである。現在は、この症候群の予後規定因子とされている晩期発症の腎症と末期腎不全が重要な特徴の1つとして加えられている。
 ウィルムス腫瘍と無虹彩の原因遺伝子はそれぞれ染色体11p13上のWT1PAX6と同定されているが、その詳細については未解明な点が多い。WAGR症候群に発症する疾患には、未知のものも含め多くの遺伝子が関連していると考えられている。
  実際の遺伝子欠失領域は11p13より広範である場合が多く[49]、主な徴候以外の併発疾患が多く存在する。一方、主な徴候全てを発症するとは限らず、程度も個人差が大きい。
  それぞれの疾患の治療や症状のコントロールは困難な場合が多い。主な徴候を含め多くの疾患の原因は未解明で、効果的な治療方法も未確立であり、生涯にわたり検査や治療を続ける必要がある。精神発達遅滞・視覚障害や合併疾患に対する治療の必要から、生活にも多くの支障を生じる。
正確な患者数は不明だが、極めて少ない。

 同義病名:
11p13 deletion syndrome、chromosome 11p deletion syndrome
11p deletion syndrome
WAGR complex
WAGRO syndromeAGR triadAniridia-Wilms’ Tumor Association(AWTA)
Aniridia-Ambiguous Genitalia-Mental Retardation
Aniridia-Wilms’ tumor-Gonadoblastoma

 歴史
1964Millerらが、ウィルムス腫瘍患者の中に無虹彩、精神発達遅滞を合併する症例がいることを報告した。1978Riccardiらは、無虹彩、ウィルムス腫瘍、泌尿生殖器異常、精神発達遅滞を呈す例に、染色体11p13の微細欠失を認めることを確認しWAGR症候群としてまとめ、WAGR症候群は染色体の微細欠失症候群であると示された。
その後、11p13領域に存在するWT1腫瘍抑制遺伝子(Call,1990; Gessler,1990)PAX6眼発生遺伝子(Hill,1991)の同定がなされた[1,2,3,4]

疫学
正確な発生率は不明[7]。世界中でも数百例の報告しかないほど稀である[2,5,6,49]
ウィルムス腫瘍や無虹彩の発症率などから概算すると、国内患者数は100例未満と推定される(白人におけるウィルムス腫瘍発症率は1/1万人、ウィルムス腫瘍患者の0.75%がWAGR症候群だったとの報告があり[9]、日本人のウィルムス腫瘍発症率は白人の約半分とされる)

2 原因
WAGR症候群は、染色体11p13領域の微細欠失により生じる、隣接遺伝子欠失症候群である[1,2,7,8,48]。実際の染色体欠失範囲は11p13に限らない場合が多い。欠失のほとんどは新規に発生したものである(de novo)[2]。稀ではあるが、再配列や均衡型転座[10]、モザイク欠失などの報告もある[2,6,10]11p13欠失(de novo)が生じる生物学的原理は不明である[1]
染色体欠失サイズあるいは欠失した遺伝子の種類と数に、発症する疾患が左右される[48]
染色体11p13領域にあるとされる、WT1
のハプロ不全がウィルムス腫瘍、泌尿生殖器奇形、腎症と関連し、PAX6のハプロ不全が無虹彩および眼全体の奇形、精神発達遅滞と関連すると考えられているが、いずれもその詳細は未解明である[1,2]。精神発達遅滞の原因遺伝子は同定されておらず、複数の遺伝子の関与が想定されている[2,7,50]
その他、未だ同定されていないWT1PAX6 の近傍に存在する複数の遺伝子が、WAGR症候群の諸症状に関連すると考えられている。
報告のある関連遺伝子(11p13近傍上の遺伝子も含む)BDNFSLC1A2PRRG4EXT2ALX4PHF21Aなど[9,39,40,42,51]

 診断[11,12,13,48,49]
無虹彩の臨床的診断を機に、染色体検査を実施し診断に至るケースが多い[12,48,49]。ほぼ全ての症例に無虹彩を合併するが、無虹彩がない症例の報告も稀だが存在する。
染色体欠失範囲は症例によって異なるが、少なくともPAX6WT1が欠失遺伝子に含まれていることが多い[11,12,13]PAX6遺伝子は、欠失ではなく突然変異や近傍の異常(位置効果)でも無虹彩を生じる[4]
染色体検査(核型/G-banding)を実施し、欠失領域が大きければ診断可能である。核型が正常であれば、FISH(PAX6WT1の欠失を確認)arrayCGHなどの遺伝子検査を実施する[11,48,49]
以前はWAGR症候群の主な徴候とされる疾患のうち複数を認めた場合、WAGR症候群であると臨床的に診断されていた。無虹彩と主徴のうちのいくつかの疾患(泌尿生殖器奇形が現実的。他は生下時には未発症か判断できないため)の存在により臨床的に診断される[48,49]。女児は外性器異常を認めない場合がほとんどのため、見過ごされるケースも多い。
無虹彩の症例には必ず染色体検査を行い、PAX6のみならずWT1の欠失の有無を調べることが推奨されている[3,4,7,30]

3 症状
無虹彩
[2,4,12,13,14,15,48]
・染色体11p13上にあるPAX6遺伝子のハプロ不全(またはその他の異常)により、無虹彩(低形成または完全欠損)と眼全体の奇形(網膜、視神経、レンズ、前房、角膜)を生じる。合併眼疾患による諸症状と視力低下(弱視または全盲)を呈する[48]。生下時よりあるものと、生涯を通じ進行していくものがある。当初の視力低下は中心窩低形成によるが、小児期後期より進行する白内障、緑内障、角膜混濁(Keratopathy)が、さらなる視力低下をもたらす[12,13,14,15]
・無虹彩:著しい羞明を生じる。遮光レンズと屈折異常に対する矯正レンズを用いた眼鏡の使用を要する。後述のKeratopathyを予防するためには紫外線を避ける必要があり、質の高い遮光レンズの使用が必要である。虹彩付きコンタクトレンズも必要に応じて使用されるが、後述の角膜Keratopathyのリスクを十分に考慮する必要がある。各種の虹彩移植[16]
・中心窩低形成:視力低下と眼振を生じる。
・白内障:生下時より生じうるが、50-85%の無虹彩患者では10代から成人にかけて、視力に影響し水晶体摘出が必要となるほどに進行する[12,13]。ただし、無虹彩患者の視力低下の主原因は中心窩低形成による部分が大きいため、白内障手術による視力改善はそれほど大きくない[13]。手術は特殊な配慮が必要:チン小帯が不安定な場合が多いため、術中合併症のリスクが高く、術式や眼内レンズ(IOL)の挿入の是非の選択を慎重にする必要がある[13]
・緑内障:小児期後期~成人にかけて眼圧が上昇してくることが多いが、生下時や乳児期から発症するものもある[12,13,15]。眼圧上昇に対し点眼薬が用いられるが、眼圧コントロールは困難なことが多く、頻回な手術(隅角切開術、線維柱帯切除/除去術、ドレナージチューブ留置など)が必要となる[14,15]。頻回な手術が角膜Keratopathyの原因となりうる。
・角膜パンヌス(Keratopathy)limbal stem cellの異常と角膜表面のサイトケラチンや接着分子などの変化が原因で角膜治癒・再生が不良となる。辺縁の血管新生から始まり、角膜全体の血管新生、角膜混濁、角質化を生じ、著明な視力低下をもたらす[14]。比較的晩期に発症するが進行性である[12]。角膜の変化が緑内障の原因となることもある。白内障や緑内障などの手術や外傷を機に進行するため、併発眼疾患への外科的介入には慎重な判断を要する[1,14]。ドライアイも角膜に問題をもたらすため、防腐剤なしの人工涙液を日常的に使用する必要がある場合もある。角膜表面への毒性を避けるため、点眼薬は防腐剤なしのものが必要となる[13]。重篤になると、全層角膜移植(limbal cell不足により治療成績不良である。Limbal stem cell の同時移植が有効とされる)limbal stem cell 移植[14]が必要となることもあるが、成功率は高くなくハイリスクである[13]
血清点眼[18]、羊膜移植、Boston keratoprosthesis(人工角膜)[17]
・その他:斜視、眼瞼下垂、眼裂狭小、視神経萎縮、小眼球症、眼前部奇形、網膜異形成、網膜剥離、水晶体亜脱臼など[13,14,15]
・生涯にわたり、上記疾患の状態や視力などについて、評価と治療が必要[12,13,15]8歳までは4-6か月毎の受診(屈折異常や弱視などの評価を中心に)が必要で、以降は晩期に生じてくる併発症の評価のために少なくとも半年~1年に1度の受診が必要である[13]。特に緑内障のフォローは生涯を通じて必要。病状によっては、より頻回な受診が必要となる。また無虹彩の多様な眼併発症についての専門知識を有する医師によって、管理される必要がある[2]
・視力低下に対し、視機能訓練や視覚支援が必要。
無虹彩の特殊な事情に対処しうる効果的な治療法は未確立であり、その特殊性により手術不成功や治療困難となる場合が多い[14]

ウィルムス腫瘍[2,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,48,49]
WAGR症候群では片方のWT1遺伝子(染色体11p13上にある)を生まれつき欠失していることが多く(ヘテロ接合性の消失)Knudsonの腫瘍発生のtwo hit theoryに則り、もう片方のWT1遺伝子の自然発生の突然変異によりウィルムス腫瘍を生じる[3,25,26,27,28,48]。しかし全てがWT1遺伝子によって説明されるわけではなく、その他の複数の遺伝子の関与が推測されている[3]
WAGR症候群はウィルムス腫瘍の発症リスクが高いため(50)WAGR症候群と診断された時点から、腫瘍の早期発見・早期治療のために、定期的なスクリーニング検査を開始する(腹部超音波検査が有用。ウィルムス腫瘍に特異的な腫瘍マーカーはない)。必要に応じてCTMRI検査など画像評価を行う[2,47]
・腫瘍倍加時間に基づいて68歳までは少なくとも3か月毎、以降は半年から1年ごとのフォローが推奨されている。ほとんどは6-8歳までに発症するが成人期での発症報告もあり、終生リスクがあると認識すべきである[2,47,48,49]
WAGR症候群のウィルムス腫瘍の特徴として、WAGR症候群ではない小児と比較し、より低年齢で発症する、両側性が多い(15%)、異時性に多発すること、Nephrogenic Restsの存在(後述)があげられる。一方で、組織型は予後良好群がほとんどで、anaplastic typeは認めず、病期Ⅳの進行期は少ないと報告されている。
WAGR症候群では、末期腎不全発症のリスクが高いとされているが、なかでもウィルムス腫瘍治療後の末期腎不全発症率は著しく高い(ウィルムス腫瘍の診断後およそ10年時から腎機能低下が始まる。特に両側性ウィルムス腫瘍の治療後の末期腎不全発症率は90%とされる)。一般小児と同様に治療反応性はよく、短期的な生存率は一般小児におけるウィルムス腫瘍治療後と変わらない(90%以上)。一方、WAGR症候群でない小児の27年後生存率が86%であるのに対し、WAGR症候群では48%と低く、その死因は腫瘍死ではなく末期腎不全による[20,21,33]
・治療は、一般小児に対するのと同様に行われる。
米国National Wilms Tumor Study Group(NWTSG)/Children’s Oncology Group(COG)または欧州International Society of Pediatric Oncology(SIOP)のプロトコールがある。NWTSGは、まず腫瘍摘出術を行い、得られた病期分類と病理診断により術後化学療法、放射線治療を行う。SIOPでは、術前に4-8週間の化学療法を行い、腫瘍の縮小を図ってから腫瘍摘出術を行い、術後化学療法、放射線治療を追加する。両側性ウィルムス腫瘍のリスクが高い患者に対する治療戦略は、未だ十分に検討されておらず未確立である[24]
日本は、JWiTSによりNWTSに準じたプロトコールが作成され、これに則り治療戦略が立てられる。現在、両側性ウィルムス腫瘍に対する、腎機能温存に配慮した治療研究が行われているところである[49]
・ウィルムス腫瘍による死亡率は高くないが、遠隔期の心不全、二次がん、末期腎不全が予後を左右する。WAGR症候群は、ウィルムス腫瘍治療歴の有無にかかわらず晩期腎不全のリスクが高いことから、特に両側性ウィルムス腫瘍に対しては、腎温存療法を考慮すべきである。片側ウィルムス腫瘍であっても、異時性に多発する特徴をもつWAGR症候群では、慎重な治療方法の選択が必要である。術前化学療法により腫瘍縮小をはかることや、腎部分切除などが考慮される(NWTS/COGSIOPのプロトコールでは、腎部分切除の効果や安全性などについて未確立である)[22]
Nephrogenic Rests(NRs)(ウィルムス腫瘍の前がん病変。胎生期の造腎組織が巣状に腎組織内に遺残したもの)WAGR症候群の腎臓にはよくみられる。びまん性・不均一・両側に多発することが多くnephroblastomatosisとも呼ばれる。3040%がウィルムス腫瘍に進展するとされる。生検(針あるいは開腹)でウィルムス腫瘍と鑑別することは困難で、慎重な画像評価を要する(MRIが有用とされる)。治療戦略は未確立であり(NWTS/COGSIOPともにNRsについての検討はなされていない)腎温存の必要からその治療方針決定の判断は難しい。化学療法を実施するか、摘出する場合は両側性であることやウィルムス腫瘍に進展した場合を考慮し、腎部分切除が行われる。化学療法と腎部分切除(病理診断含む)を組み合わせて実施する場合もある。治療の有無にかかわらず、NRsからのウィルムス腫瘍発生がないかの検索のために、より慎重な画像検査を継続していく必要がある[23,31,32,33]

腎機能障害[1,34,35,36,37,48]
WT1遺伝子は腫瘍抑制遺伝子であるだけでなく、発達期の泌尿生殖器系で発現し、腎臓と生殖器の正常な発達に必要とされている。糸球体機能を維持するためには足細胞(Podocyte)が重要であり、その機能維持にはWT1遺伝子の働きが必要であると報告されている[2,34,35]。しかしその詳細は未解明である。
WAGR症候群患者のおよそ60%が慢性腎臓病を発症し、その多くは12才以降に発症するとされる[47]。巣状分節性糸球体硬化症の病理組織像を呈することが多い[1,37]
・腎機能障害は、ウィルムス腫瘍の既往の有無にかかわらず発症リスクが高い。
・ウィルムス腫瘍の既往とWAGR症候群のある患者を20年間フォローした結果、片側ウィルムス腫瘍の既往のあるものは36%に、両側では90%に末期腎不全を生じたと報告されている[36]
・生涯にわたり腎不全発症リスクがあるため、一生腎機能の定期的な評価が必要である[48]。少なくとも半年から1年ごとの、タンパク尿(尿検査)、血圧測定、血液生化学検査(BUNCreを含む)が推奨されている[36,48]
・腎機能低下に対しては、慢性腎臓病診療ガイドラインに基づいた診療がおこなわれる。タンパク尿や高血圧に対しては、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が用いられ、腎機能障害の進行を遅めるとされているが、治癒にはいたらない[36]。またその有用性について、WAGR症候群患者を対象とした研究の報告はない。末期腎不全に対しては、透析療法や腎移植が必要となる[36]WAGR症候群の予後規定因子は腎機能障害とされている。

 尿生殖器異常[2,38,47]
WT1遺伝子のハプロ不全が泌尿生殖器奇形と関連していると考えられているが、WT1遺伝子以外の遺伝子の存在も示唆されており、それらの複雑な役割については全く未解明である[38]
・男性には、停留精巣、尿道下裂、小陰茎、陰嚢形成不全がよくみられ、必要に応じて外科的修復術を行う。稀だが女性内性器を併発する重篤な両義性(半陰陽)を生じる場合もある[47]。腹腔内性腺(精巣)のあった男性は、精巣固定術の術後も精巣悪性腫瘍のリスクが高いため、定期的な診察が必要である[2]
・女性では外性器奇形の報告はないが、索状性腺、子宮奇形(低形成、単角子宮、双角子宮など)、内性器がないなど、多様な内性器奇形が報告されている[47]。索状性腺は性腺芽細胞腫のリスクが高く予防的な摘出術が必要となるため、WAGR症候群と診断された時から少なくとも1年に1度、骨盤内の画像検査が必要とされる[2,47]。月経異常や思春期早発など内分泌学的異常を呈する場合もある[2]

精神発達遅滞[1,2,39,40,41,42,47,49,50,51]
・ほとんど全ての患者に知的障害(IQ<70)を認めるが、その程度は重度から中等度(IQ20~70)と個人差が大きい。稀だが正常知能(IQ>100)の患者もいる。
・様々な行動障害や認知機能障害、精神障害、神経学的異常を生じうる。程度は様々で、複数の障害を併せ持つこともある[40,47]
注意欠陥障害(多動あり、なし)、自閉症、自閉症スペクトラム障害、広汎性発達障害、学習障害、不安、強迫性障害、うつ、微細運動機能障害、粗大運動機能障害、言語習得障害、感覚統合障害、聴覚情報処理障害など[40,47]
・早期からの、そして継続した発達評価と、包括的な療育・機能訓練(作業療法、理学療法、言語聴覚療法、視機能訓練など)が必要[49]。特に、併存する視覚障害が認知機能や様々な行動障害・精神障害に影響する場合も多く、視覚支援に配慮したプログラムが必要[2]
・成人後は、自立した生活を営むことは困難な場合が多く、多角的な支援が必要となる[2,6]
・精神発達遅滞の原因遺伝子は同定されていない[50]WT1PAX6と同時に欠失する複数の遺伝子が関与していると考えられているが、未解明である。欠失領域のテロメア側への大きさが障害の発生や重症度と関連するという報告もあるが、詳細は不明である[39,40,42]
PAX6BDNFSLC1A2PRRG4(特にBDNF[39,42])が精神発達遅滞(認知障害)や行動障害と関係している可能性があるとの報告がある[39,40,41,42,51]

肥満[2,39,43,44,47]
WAGR症候群の一部の患者では、小児期発症の高度肥満を呈する[43]。染色体11p14領域にあるBDNF(Brain-derived neurotrophic factor)遺伝子のハプロ不全があると、小児期発症の肥満を呈するとの報告があるが、その是非や詳細なメカニズムは未解明である[39,43,44]。脂質異常症、インスリン抵抗性、高血圧といったメタボリック症候群を呈する者もいる。
BDNF欠失による高度肥満を呈する患者を、WAGRO症候群と表すこともある。
・肥満のリスクは生涯にわたるため、成人期もBMI、閉塞性睡眠時無呼吸症候群やメタボリック症候群など肥満に伴う合併症について定期的にフォローする必要がある[2]

膵炎[2,45]
・膵炎の発症リスクが高い。高中性脂肪血症の患者や薬剤起因性膵炎の原因とされる薬剤を使用した場合は、特に注意を要するとされる[45]
PAX6遺伝子は膵臓の発達に関与していることから、このハプロ不全が膵炎発症リスクに関与している可能性が示唆されているが、詳細は未解明である。
・膵炎発症のリスクが高いことに対する診療ガイドラインなどはない。食事療法や運動療法などにより脂質異常症(特に中性脂肪)を改善し、小児期から血清脂質、リパーゼ・アミラーゼ値の定期検査を行うことが推奨されているが、その有用性などについては十分検討されていない[45]。再発を繰り返す膵炎に対し、フィブラート系高脂血症薬が有効とする報告もある[45]

その他の関連疾患
責任遺伝子が同定されているものや、推定されているものもあるが、多くは不明。その発症メカニズムなどの詳細も全く未解明である。
少なからず報告のあるもの
てんかん、脳梁欠損、種々の運動障害(筋緊張低下/亢進、協調運動障害)、無嗅覚症、痛みに対する反応低下、松果体形成不全に伴うメラトニン産生不全と睡眠障害
先天性の四肢異常(内反足、多指症、合指症、関節形成不全、アキレス腱短縮など)や側彎、多発性骨軟骨腫、低身長
頻回で慢性的な中耳炎と副鼻腔炎、気道過敏症(喘息、繰り返す気道感染症)、歯科口腔異常(不正咬合、乳歯の生え変わりが遅い、小顎症、狭口蓋)、各種先天性心疾患(卵円孔開存、ファロー4徴など)など
稀だが報告のあるもの
腎嚢胞、馬蹄腎、鼠径ヘルニア、口蓋裂、気管軟化症、横隔膜ヘルニアなど
WAGR症候群の自然歴をまとめた総説「WAGR Syndrome: A Clinical Review of 54 Cases(Pediatrics 2005;116;984)[47]、「WAGR Syndrome A Guide for Physicians(from IWSA, Joan C. Han, John V. Krynger)[46]も参照。

4 治療法
 根本的な治療法はなく、生まれてから生涯にわたり、それぞれ生じた疾患に対する対症療法を行う[1,6,47]。必要に応じて薬物治療、手術、機能訓練などが行われる。発達の遅れや行動異常、神経学的問題に対しては、乳幼児期早期からの療育訓練により改善を促す[49]
各疾患の治療などについては「症状」の各項を参照。
各疾患のおおよその好発時期はあるものの、発症の有無やその時期、程度は個人差が大きい。生涯にわたり高いリスクが続く疾患が多く、また早期発見・早期治療あるいは予防が重要な疾患も多いため、検査や重篤化を防ぐための治療も一生涯続く。
継続した検査や治療が必要となるため、成人移行の問題がある。

5 予後
成人期の死亡原因の大半は、晩期発症の腎機能障害である[7,48]
悪性腫瘍と腎不全のリスクが高いため平均寿命は一般より短いとされるが、縦断的データの報告はない[2] 

written by Madoka Hasegawa 
最終更新日:2015.5

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